日本社会臨床学会は、社会・文化の中で「臨床」という営みを点検、考察し、さらにそのあり方を模索することを目的としています。今の時代を生きる人間の悩みや思い、その背後にある社会の矛盾や問題を、既成の学問の枠組やその方法にとらわれることなく、さまざまな領域、さまざまな立場の人々が共に、自由に考え合える場を作り出すことを目指しています。
本学会設立のきっかけは、1991年11月、日本臨床心理学会が、学会総会において、厚生省による臨床心理士国家資格化に協力する方針を決めたことにありました。
日本臨床心理学会は、それまでの20年余りを、臨床という営為を行う側の働き方を問い直しながら、「される側」の言葉に学び、「する側」自身の資格・専門性に対して批判的にこだわり続けてきました。
その中で見えてきたものは、多々あります。
心理テストや心理治療が人と人とを分断し、差別・抑圧していく道具であること、精神医療や相談、さらには裁判の場において心理学が果たしてきた役割の問題性、早期発見・療育にみられる優生思想や、それと等質のものを含む脳死・臓器移植の問題などです。また、資格・専門性という軸によって、社会がいま再編されつつあるという事態にも気づいてきました。その流れの中に、私達一人ひとりの生活、一つひとつの関係も巻き込まれ、取り込まれてきています。
当時、日本臨床心理学会の会員であった幾人かと、その周辺の賛同者が集まり、臨床心理士の国家資格化への協力を決めた日本臨床心理学会を出て、日本臨床心理学会がそれまでの20年間に積み重ねてきた取り組みを継承しつつ、より一層の広がりを求めて新しい場を作ろうということになりました。それが、日本社会臨床学会です。
現在(1995年8月)までに、1993年4月設立総会(東京)を行い、1994年4月第2回総会(神奈川)、1995年4月第3回総会(京都)を開催してきました。昨年から今年にかけては、「カウンセリングと現代社会」を考える連続学習会を継続して開いています。学会誌『社会臨床雑誌』は年3回の発行です。また、学会編による『「開かれた病」への模索』、『人間・臨床・社会』、『学校カウンセリングと心理テストを問う』(いずれも影書房)、『他者への眼ざし:「異文化」と「臨床」』(社会評論社)を出版しています。対外的にも、心理職の国家資格化反対、脳死・臓器移植反対の立場からの臓器移植法案反対の意見表明を行ってきています。
私達は、一人ひとりの日々の生活の中から言葉を生みだし、暮らしや社会を語り合い、人が人を差別することなく誰もが同じ地平に並び立ち生き合える在り様を、一歩ずつ目指してゆきたいと望んでいます。
本学会は、「本学会の目的に共鳴し、『社会臨床』ということに関心を持つ」人々によって構成されます。このこと以外に、会員になるための「条件」や「資格」はありません。どなたでもご参加ください。ご入会をお待ちしています。