社会臨床雑誌第14巻第3号(2007-03-11発行)

はじめに(日本社会臨床学会編集委員会)(1)

 

企業的な社会、セラピー的な社会(小沢健二)(2)

 

〈06秋の合宿学習会「グローバリズムと教育私企業化」報告〉

発題:教育私企業化の意味(佐々木賢)(53)

討論(66)

 

グローバル経済とは何か? 〜デビッド・コーテン『グローバル経済という怪物』を下敷きに〜(原田牧雄)(85)

ただニワトリを殺すだけでいいのか 〜鳥インフルエンザ問題を考える(明峯哲夫)(109)

特別支援教育が進む学校のなかで(渡部千代美)(119)

〈討論〉「不登校」をめぐって(山岸竜治・篠原睦治・中島浩籌)(122)

〈ここの場所から〉

暮らしの中でのコミュニケーションやことばの再考 〜『バケツ』『無敵のハンディキャップ』を授業で使用する中で〜(崎原秀樹)(131)

ある無認可保育園のゆくえ(浪川新子)(134)

 

〈映画や本で考える〉

行くも地獄・戻るも地獄の自己決定 〜『地獄少女』の映し出す今〜(林延哉)(138)

 

日本社会臨床学会第15回総会のご案内表紙裏

編集後記142

14巻3号正誤表
 
p.63左 下より4行目 本多由紀 本田由紀
p.64左 9行目   改行削除
p.122右 注(2)1行目 国立小児病院心理室 国立小児病院心理検査室
p.130左 下より17行目 p.2 p.123
p.130右 7行目 p.6 p.127

はじめに

日本社会臨床学会編集委員会

いま、2006年度最後の号、14巻3号をお届けする。

佐々木賢さんは、14巻1号で「教育の私企業化」を論じたが、これを受けて、2006年秋には、「グローバリズムと教育私企業化」のテーマで、合宿学習会を企画した。発題は、佐々木さんだったが、討論もじっくりできた。本誌では、その報告をしている。ここでは不十分にしか論じられなかった「グローバリズムのなかで進行する、それを支える心性操作」については、やはり佐々木さんが、15回総会の「記念講演」という形で問題提起することになっている。当日のシンポジウムII「教育とグローバリズム」は、これら一連の提起と討論の中で設定されている。本誌の報告も、総会での討論への助走的役割を果たせればと願っている。

上記テーマと深く関わることになったが、小沢健二さんの「企業的な社会、セラピー的な社会」および原田牧雄さんの「グローバル経済とは何か? 〜デビッド・コーテン『グローバル経済という怪物』を下敷きに」という労作を掲載することができた。

小沢さんは、アメリカ合衆国で暮らしながら、南米ほかの各地を訪ねて、体験と思索を重ねておられるが、今回は、「企業的な社会」では、気づかれないで人々の心をたくみに操る「セラピー的な社会」になっていることを物語風に活写している。原田さんは、D.コーテンを闘読しながら、グローバル経済の進行するアメリカ社会を紹介し、そこに、現代日本の姿そのものを反省的に見つめようとしている。

佐々木さん、小沢さん、原田さん、三人ともが、「グローバル経済」というマクロな課題・問題に接近しながら、同時に、そこで作られる私たちの「心性」の虚実を見詰め、そこから解放されていく道筋を探っている。

いま、マスコミは「鳥インフルエンザ問題」をセンセーショナルに報じている。明峯哲夫さんは、「ただニワトリを殺すだけでいいのか」と問い、人間社会の、ニワトリなど動物たちとの関係を問い直している。なお、明峯さんは、1巻3号から4回にわたって、「人間と農」を論じている。

渡部千代美さんは、「特別支援教育」が進む学校から、子どもたちが細かく分けられていく様子を報告しつつ、「特別支援教育」でよいのかと問うている。なお、「特別支援教育」の現実と問題については、皇學館大学(三重県名張市)で開催された第11回総会のシンポジウムI「『支援』ばやり、これで大丈夫か」(11巻2号)以降、本誌でも、教育基本法「改正」、発達障害者支援法などを議論しながら、それらと関連して、折々に考えてきた。

山岸竜治さん、篠原睦治さん、中島浩籌さんの「不登校」をめぐる討論は、山岸さんの「不登校理解=原因論の変節に関する一考察〜小泉英二に照準して」(13巻3号)に触発されて行われたが、「学校」とは何か、という、古くて新しい議論になっている。

〈ここの場所から〉欄で、崎原秀樹さんは、北島行徳の書いた小説『バケツ」などをテキストに、「障害児臨床心理学」の授業をしたことを振り返っている。浪川新子さんは、ある無認可保育所での子どもたちの様子を描きながら、「無認可」のゆくえを考えている。

〈映画や本で考える〉欄では、林延哉さんが、近年放映されたアニメ『地獄少女』を鑑賞しながら、「自己決定」ということを思索している。これからも、この二つの欄を楽しんでいただきたいし、これらの欄へも、気楽にご投稿いただければありがたいと改めてお願いしたい。

表紙裏には、第15回総会のお知らせを載せた。それまでに、総会への誘いの思いも込めて、4月には15巻1号をお届けする。どうぞ、お楽しみに。(2007/02/10)